【報告】東北から学ぶイノベーション研究会(きらりんきっず)

5月13日(土)、陸前高田市で未就学児の子どもをもつ親を対象に育児支援や親子広場などの活動をしているNPO法人きらりんきっずの伊藤昌子代表のお話をうかがいました。

きらりんきっずは東日本大震災が起こる前年、2010年夏から市内高田町で活動を始めました。高田町は、市内8町のなかでも震災で大きな被害を出した地域です。

この研究会の事務局をつとめているDSIAは、海外の財団を通じてきらりんきっずへの活動を支援するための寄付集めのため、3カ月に一度、きらりんきっずを訪問し、活動のようすや運営上の課題、今後の見通しなどをうかがってきました。最後はコロナ禍で現地に行くことが難しくなりましたが、DSIAの支援活動は、2020年にきらりんきっずが本設となる今の場所(アムウェイハウス)に移るまで続きました。

10年以上のおつきあいがある伊藤さんから、今回は研究会でいろいろなお話をうかがいました。メンバーのメモおこしですので、文章として未完だったりその場でお話をお聞きになっていないと意味伝わりにくい部分もあると思いますが、研究会で話されていることの雰囲気だけでも伝われば幸いです。

 

<復興から学ぶイノベーション研究会(第3回)>

日時: 2023年5月13日(土)15時~16時半
話題提供者: NPO法人きらりんきっず 代表理事 伊藤昌子氏(陸前高田市)
主催:東北いろは実行委員会(事務局:一般社団法人DSIA)

■研究会でのお話

● 活動について

震災前から活動していた(2006年から活動を開始し、2010年7月26日市内でおやこの広場を開所。2013年にNPO法人化)。東日本大震災でスタッフ全員が被災。
場所の重要性を感じて、2011年4月14日から避難所だった中学校の図書館で活動を再開。そのあと、4つの場所(仮設施設)で運営し、2020年5月に現在の陸前高田アムウェイハウス―まちの縁側(隈研吾設計事務所設計)に移転。
現在のスタッフ7名は全員、陸前高田市在住。地元に生まれて地元に育った人と、結婚を機に市外から来た人がいる。どんな人にとってもホッと一息つけて、居心地のいい、安全・安心な場づくりを心がけている。
子育て支援は母親支援。親も余裕がないと子育てはできない。
キャンドル講座など、地域のお店の方を講師に迎えて母親向けに講座を実施。
地域のお店の方を講師に迎える。地域のエンパワーメントにつながる。
母親だけでなく、父親も子育てに不安があるので、パパ支援も行っている。
また、絵皿絵付け体験などパパがカッコいいと思ってもらえることを狙っている。
夫婦円満が何よりの子育て。
出産後に10人に3人はブルーになるといわれててる。
出産という大事業を成し遂げて体をいたわることが必要なので、これから出産を控えるプレママへの支援も実施。そこで妊婦同士がつながるきっかけになっている。
ひろばに参加した子どもが、インターンで参加してくれている。震災のときにきらりんきっずを利用していた男の子が中学生になって職場体験としてきらりんきっずに来ておむつを替えたりしてくれる。保育士になりたいと言ってくれて、次世代の人材を育てている気がして嬉しい。

 

● 地域とつながる

「おでかけきらりん」では施設の外で活動をして、気軽に立ち寄れるおやこ広場を運営している。また、年に2回、大きなイベントを実施している。
その1つが「きらりん夏まつり」。きらりんきっずが主催。
震災前、陸前高田の昔からのお祭り(お天王さま祭り)が楽しみだった。震災後、再開まで何かしたいと思いこのイベントを実施することになった。今年は7月8日(土)に開催予定。
もう1つが、ファミリーフェス。去年は高田松原運動公園で開催した。
キッチンカーも出たり陸前高田市のマスコット「たかたのゆめちゃん」もくるので、子どもたちも楽しみにしていて、500名の人が参加している。

 

● 連携事業

子育て支援ネットワーク(NW)にも参加。市や社協やNPOなどが参加。
その中から、貧困家庭向けにも「りくぜんたかたお弁当届けようプロジェクト」を実施。
陸前高田は子どもが少ないが、貧困家庭もあるので、どうにか支援していきたい。
ただ、助成は今年度までなので、来年度は検討中。連携してお弁当配布事業を実施。
以前は他の団体が貧困家庭にお弁当を配っていたが、なくなってしまい、やはり必要だということで実施。
困っている人は困っているとは言わない、関係性をつくり会話をする中で察するようにしている。きらりんきっずは、「安心・安全」を第一にしている。守秘義務を守り、話しやすい雰囲気を作ることや、子どもにも「ダメ」とばかり言わない、などを心がけている。「傾聴」の要素が強い。そうでないと、安心して過ごせないので。

 

■Q&A

● 財源

国の地域子育て支援拠点事業(平成27年創設)。
また、2019年、住友の助成で防災事業を実施(住友商事 東日本再生フォローアップ・プログラム)。キーホルダー、ブレスレットなど(パラコード)を道の駅で販売。
震災を経験したきらりんきっずだからこそ後世に伝えるべきこととして、防災意識を忘れないよう取り組んでいる。

 

● コロナ禍

人とのつながりが復興活動だった。子育ては多種多様な関りで人を支えている。
しかし、コロナ禍は人が分断された。
人による考え・価値判断の違いが顕著にでた。
この環境で何が出来るかを考えた。
コロナで、法人として、ミッション、ビジョンが大事と再確認。
Mission:子育てひろばを通して人をつなぐ・地域をつなげる・復興の先の未来につなげる。

ひろばは参加できる人が安心できることが最優先。スタッフが変わると参加者が安心できない。コロナで人材育成が大事だと実感した。

 

● 変化(変わったこと・変わらなかったこと)

震災前
駅通りのお店はシャッターが閉まっていた。
子育て支援は色んなことが発信できると思い始めた。
週3回開催して1日10組きてくれていた。

 

震災後
「こんなところで子ども育てられない」と言われて、何かせねばと思った。
何もないけど、お母さんが望んでいることを柔軟な頭ですることは変わらない。
今やれること、今望んでいることを工夫して柔軟にできるのが民間・NPO。
しかし、子育て支援は、育ったら終わりで、他の活動にくらべて、成果がみせにくい。
ソフト面のインフラ。

 

NPOがたくさん出来て、非営利の活動に認知度があがり、市だけでは出来ないことをNPOがするような環境になってきた。社協も高齢者から子育ても支援したいと変わってきた。
地域の委員さんたちとも緩くつながっている。
震災前は、市役所や地域の商店街、町内会、利用者といった市内のネットワークでの付き合いだったが、震災後は市外からのボランティアや寄付者との関係もできた。

 

●伊藤さんのアントレプレナーシップ

自分は不器用で、何もできない。
子育て支援をしながら育ててもらった。長女を出産し、サークルつくったのがはじまり。
ボランティア活動はできることを工夫してすぐに出来る。
まちを良くしていきたい、という思いで一つずつ進めていく。これは子育てと同じように一歩ずつ。
普段やっていることがいざというときに活きるから、お金がなくてもやろうと思っている。

ゆるいつながりで無理なく。笑顔の輪を咲かせたい。
「今」「できること」を「楽しく」「一歩一歩」進んで陸前高田のためにできることをしたい。

以上

=============

※陸前高田市
陸前高田市は、2019年、SDGs未来都市に選定。
2020年、人口は1万8千人で、新生児は95名。震災前は2万3千人都市。
岩手全般に時給は低くて、平均で800円ほど。
(岩手県の最低賃金:平成25年665円、令和元年790円、令和3年821円、令和4年854円に改定。)
高田は、共働きが前提で、子どもを小さい時から預ける。
一方で、子どもがいると兄弟が欲しくなり、2人目、3人目を出産する傾向がある。